私は漢方が大好きです。それは、女性の心と身体にとっても優しいからです。
西洋薬では、一部分は是正しますが、身体全体ではバランスが崩れたまま。
本来の治療をしている症状改善はもとより、疲れにくくなった・風邪をひきにくくなった・頑固な便秘が治ってきたなど、いろいろと症状を改善してくれるいのです。
また、更年期によるめまいで耳鼻科で治療してもなかなか治らなかったのが漢方を内服し始めて2週間くらいで改善してきたり・・・
漢方は長く飲まないと効かないとよく言われますが、症状によってはすぐに効きます。
特にアレルギー性鼻炎などは、漢方内服して30分くらいで症状が改善してきます。
漢方はこころとからだに作用して、本来あるべき状態に修正してくれる作用があります。
その意味で、デリケートな女性には漢方がピッタリ!
また、漢方薬は現在保険適応の医薬品エキス剤が130種類以上もあるため、産婦人科のとどまらず、
高血圧症や高脂血症などの内科的疾患
アトピー性皮膚炎・皮膚掻痒症・湿疹などの皮膚科疾患
頭痛・めまい・耳鳴りなどの耳鼻科的疾患
漢方は陰陽理論に基づいたバランスの医学で、「こころ」と「からだ」のバランスを診て整えることを目指した医療です。
こころとからだの調和、すなわち「心身一如」という考え方が貫かれています。また、各個人の持ち合わせている自然治癒能力を高めることで病に対処するという考え方をしています。
それらのことから、当クリニックでは全人的医療を実践しておりますので、積極的に漢方を治療に使用していきます。
漢方は特に女性における不定愁訴に対しては最適です。
漢方医学では、陰陽のバランスの具合を診断し治療に生かしてゆきます。
そのための診断方法としては、望診・聞診・問診・切診があります。
●望診・・・視覚によりその人の置かれている状態を観察します。
・皮膚の色、顔色
・からだの動き
・舌の状態 など
●聞診・・・聴覚や臭覚により患者さまの状態を観察します。
・しゃべり方、声のはり
・呼吸音、腸音
・体臭、口臭 など
●問診・・・患者さまから話をお聞きするなかで状態を把握する。
・自覚症状の質問がきわめて大切です
・症状の変化・経過
・既往症 など
●切診・・・直接患者さまのからだに手を当てて診断します。
・腹部全体をみる腹診
・手首の脈診
・手足を中心とした触診 など
漢方では、その人がどのような状態にあるのかを診断するために用いるものさしのようなものを「証」といいます。
また、「証」はどのような漢方薬を処方すべきかを決定する上において重要な役割を果たします。
よく使用されるのに「陰証」「陽証」があります。
「陰証」
・寒がり
・温熱刺激を好む
・顔面が蒼白
・四肢末梢が冷える
・脈が沈、遅い
・消化不良の下痢便
「陽証」
・暑がり
・冷水を好む
・顔面が紅潮
・高体温
・脈が浮、速い
・下痢に伴う灼熱感
女性診療における漢方
「心身一如」
女性はもともと生理周期があり、それに支配されているといっても過言ではありません。つまり女性のライフサイクルはホルモンの変動により左右されるのです。
そのため、こころとからだのバランスが重要なのです。
漢方医学においては、基本的には陰と陽のバランスのとれた状態が健康な状態と考えています。
漢方での考え方は
・足りないものは補う
・余剰なものは排する
・冷えておれば温め
・緩んでおれば緊張させ
という具合に、常にこころとからだ全体のバランスを整えることを主眼にして治療してゆく医学なのです。
漢方医学では「心身一如」とうう考え方が根底にありますが、これこそが産婦人科の疾患には最適な治療法なのです。
このことから当クリニックでは漢方治療を随所に取り入れて、こころとからだの両面からサポートする診療をおこなっております。
漢方とは?
漢方薬の原料は、ほとんどが植物です。例外的に一部動物や鉱物が含まれています。
昔から、自然の植物の中から先人たちが多くの生理活性を持った物質を見つけて、それを組み合わせることで、つまりバランスをとることで治療を行ってきました。
時々民間療法と混同される方がおられますが、全く違ったものです。漢方薬では古典に基づき、一定の理論・法則にしたがって成り立っているものなのです。
どう効いているのかわからないから使わない・・・といわれるお医者もおられますが、最近では作用機序の解明が進められています。
学会誌などでの報告、論文を読みますと西洋医学に遜色なく、というよりもあるときにはもっと合目的に作用していることに驚かされます。
根拠に基づく医療(Evidence based medicine:EBM)が脚光をあびていますが、徐々に漢方におけるエビデンスが示されてきており、私も漢方を積極的に使っていく上で心強く思っています。
「実」と「虚」
ここで漢方の難しい話をしようとは思いませんが、「実」と「虚」のだいたいの概念を知っていただきたいのです。
これはその人の状態を把握する上でとっても大事なのです。
「実」とは正気(からだの抵抗力)が十分に強ければ弱い邪気(病毒の破壊力)くらいでは病気になりませんが、強い邪気がくると激しくせめぎ合うため病気になる状態をいいます。(たとえば、患部の痛み・発赤腫脹などの生体反応がおきること)
「虚」とは、正気が衰えていると、弱い邪気でも抵抗できずにすぐに病気になる状態です。(この場合は痛みや発赤などが乏しい)
月経不順の漢方治療
月経不順は性成熟期の女性にしばしば見られる症状で、産婦人科では頻度の高い疾患です。
この月経異常や排卵障害などはストレスや心身症などの要素も併せ持つために、全人的医療を施さなくてはいけないケースがあります。
そういった場合には、漢方治療が大いに役に立つのです。
まずは、気楽に受診をなさることをお勧めいたします。
温経湯
月経異常の本態がらするとよく使用される漢方薬です。
ゴナドトロピン分泌不全による排卵障害では、LH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌を促進させる作用を有しており、また多嚢胞性卵巣症候群などのLHが分泌過剰になっている場合にはその分泌を抑制する作用があることがわかってきました。
事実、私の外来でもホルモン剤に反応しなかった人が温経湯を内服していて排卵周期が回復した症例があります。
当帰芍薬散
なで肩、細身、色白で冷えの強い例に用いられます。いわゆる竹久夢二の絵にでてくるような女性が「証」として合っています。
頭痛・吐き気などがある場合にはまず処方してみます。
桂枝茯苓丸
比較的体力のある症例によく使います。
肩こり・めまい・頭痛などの症状がみられる症例に使用します。
桃核承気湯
月経異常と月経前症候群を併せ持つ場合に用いられます。
とくに月経前症候群でも精神症状が前面に出てくるようなタイプに良く効くといわれています。
のぼせ・めまい・頭痛・肩こりなどの症状を呈する「実証」の人には最適な処方となります。
月経困難症・月経前症候群の漢方治療
月経異常と月経前症候群を併せ持つ場合に用いられます。
とくに月経前症候群でも精神症状が前面に出てくるようなタイプに良く効くといわれています。
のぼせ・めまい・頭痛・肩こりなどの症状を呈する「実証」の人には最適な処方となります。
月経困難症
月経困難症の治療としては、まず市販されている鎮痛剤、もしくは医療機関で処方していただいた薬を内服し、それらの効き目が悪くなって来た際の次の手段として、漢方薬の併用を考えます。
月経困難症で日常使用される漢方薬は「当帰芍薬散」、「加味逍遥散」などですが、痛みが強いと「芍薬甘草湯」が良く効くといわれています。
月経時に「桂枝茯苓丸」「桃核承気湯」「柴胡加竜骨牡蠣湯」などの漢方薬も使用されます。
月経前症候群
月経前症候群(月経前緊張症)とは、月経が始まる1週間ほど前から種々の精神身体症状が出現して、日常生活・社会生活に支障をきたすものをいいます。
月経前症候群の原因は不明ですが、血のめぐりが悪くなっていると考えられることから、まず3大婦人薬と呼ばれている「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸」「加味逍遥散」を処方します。
これらの使い分けとしては、
・「桂枝茯苓丸」・・・精神神経症状が軽度の場合
・「加味逍遥散」・・・精神神経症状が強い場合
・「当帰芍薬散」・・・冷え性がある場合
を大まかな目安としています。
またむくみなどに対しては「柴苓湯」「五苓散」などを併用して症状の緩和に努めます。
妊娠と漢方
妊娠の際には日常よく漢方薬が使われています。
漢方医学の古典である金匱要略の妊娠病篇に「婦人妊娠常に当帰散を服するに宜し、之を主る」、「妊娠胎を養うは白朮散之を主る」とあり、むかしから当帰芍薬散などが安胎薬として使用されてきました。
妊娠悪阻(つわり)
妊娠悪阻(つわり)のときには「小半夏加茯苓湯」が好んで使われます。さらに症状が強い場合には「半夏厚朴湯」が使われます。
ただし、つわりのときは漢方薬は非常に服用しにくいですので、いったんお湯に溶かせてから、よく冷やして飲むようにすると飲みやすいと思われます。
切迫流・早産
安胎薬といわれる「当帰芍薬散」が一番に使用されます。
現在、主に切迫早産の治療として使用されている塩酸リトドリンを使用した際に、頻脈・動悸などの副作用の軽減によく使われます。
また「柴胡加竜骨牡蠣湯」もこれらの副作用を減弱するという報告をうけています。
妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)
昔で言う妊娠中毒症で「柴苓湯」がよく使用されます。
習慣流産などの治療にも用いられますが、本来は浮腫の改善によく用いられる漢方薬です。
また、胎盤における微小循環での微小血栓形成を抑制するといわれていることから、胎児胎盤循環を改善させるためにも使用します。
妊娠中の風邪
風邪には「葛根湯」といわれるくらい、みなさんよくご存知ですが、実は「証拠」が妊娠の病態と合わないのです。
ただ、ほとんどのお医者様が知らないし、あまりにも風邪には「葛根湯」という固定観念が強いため、根強く残っています。
本来であれば「香蘇散」が第一選択薬で、湿(鼻水等)であれば「小青竜湯」、乾(から咳)なら「麦門冬湯」を処方いたします。
更年期障害の漢方治療
更年期にはホルモンの分泌が低下してゆき、ホルモンバランスに変調をきたし、そのことがこころとからだの不均衡を招き種々の不定愁訴が出現してきます。
その意味からすると、更年期障害に対して漢方は最適の治療法の一つと言えるのです。
いままではホルモン補充療法(Hormone replacement therapy:HRT)がよく使用されていましただ、2002年5月にアメリカでのHRTの臨床試験が副作用を理由に半ばで中止になった影響を受けて、日本更年期学会からもHRTの慎重な投与のガイドラインが出されています。
一方、漢方治療は補完・代替医療として広く認知されており、また予防医学という観点からも脚光を浴びています。
確かに西洋薬と比べて切れ味が悪いといわれていますが、中には劇的に症状を改善してくれることもあります。また、漢方薬についての薬理作用などがどんどん明らかになってきており、根拠に基づいた医療の一翼をになうものとして有用性を増しています。
当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸
三大婦人漢方薬として有名であり、更年期障害の50~90%に有効であるといわれています。
ただし、その中でも「証」などによって使い方が少し違ってきます。
「当帰芍薬散」・・・虚証、冷え・頭痛・めまい・貧血・発汗
「加味逍遥散」・・・中間証、のぼせ・頭痛・イライラ・神経質・不安感
「桂枝茯苓丸」・・・実証、のぼせ・肩こり・頭痛・めまい
更年期障害の際に訴えるいわゆる不定愁訴は多岐にわたるため、これらの処方を基本としてその人の症状にあわせて処方を追加・修正していくことが重要です。ですから、漢方の効き具合を主治医に伝えてあなたに合った漢方薬を探していただいたらと思います。
桃核承気湯・柴胡加竜骨牡蠣湯
これらの漢方薬は主に中間証、実証の方に用います。特にのぼせや頭痛、耳鳴りなどを訴える症例に使用することが多いのです。
また、動悸や不安などの精神症状を訴える症例には柴胡加竜骨牡蠣湯を処方いたします。
葛根湯
葛根湯はみなさんよくご存知の風邪の時によく処方される漢方薬です。
実は、風邪の初期のときに首筋のこわばりなどの症状があれば葛根湯を使用することが多いのです。
ですから、肩こりや首筋の突っ張り感、頭痛などの症状にも良く効き、更年期のこのような症状緩和に処方されることがあります.